2021年2月号 人権問題への対応を迫られる日本企業
ESG(環境・社会・企業統治)投資では、E(環境)だけでなく、S(社会)である人権への関心が高まっている。投資家は持続可能な経済や企業の実現には、労働者や地域社会が重要であると考えている。そのような環境下、新型コロナは私たちの社会が抱えている根本的な人権問題を浮き彫りにした。生きるためにコロナ禍でも働かざるを得ない人など、最も脆弱な人々が悪影響を受けておりすぐにも解決しなければならない問題である。
すでに国連は2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を承認しており、最も重要なのが指導原則で定めた人権デューデリジェンス(DD)である。企業が強制労働や児童労働、ハラスメントといった人権侵害のリスクを特定して、予防策や軽減策をとること、社内だけでなく、供給網(サプライチェーン)も対象で、取引先で強制労働などが発覚した場合には改善を要請し、その結果も追跡しなければいけない。リスクに関する情報開示も求められている。
日本の企業が動くのは、日本の外国人労働者に対する強制労働、差別、ハラスメントなどの疑いについて国際的な批判が強まっているためである。特に技能実習制度の評判が悪く、とりわけグローバル企業にはリスクとなっている。多国籍企業の多くは持続可能な供給網(サプライチェーン)の構築を目指し、公正な生活資金を支払える仕組み作りをしている。
遅ればせながら日本においても富山市の縫製会社、アイマックは2020年9月、社内で働く外国人労働者などを想定した通報制度を導入した。人権団体であるザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)が運用するスマートフォンアプリの案内を日本語と中国語で玄関に貼っている。多言語で相談を受け、個人情報に配慮しながら会社側と対応策を講じる。同社の製品納入先である「ミキハウス」ブランドの子供服を扱う三起商行(大阪府八尾市)の要請によるものである。加えて国際協力機構(JICA)は2020年11月、企業や業界団体、労働組合、弁護士などが外国人労働者の問題解決に向けて連携するための任意団体「責任ある外国人労働者受入プラットフォーム」を設立した。
厚生労働省のまとめによると、2019年10月末の日本の外国人労働者は165万人と、14年からの5年間で倍増している。技能実習生はこのうち23.1%の38万人に上る。同制度は途上国などへの国際貢献が建前だが、安価な労働力の確保として使われ、人権侵害が疑われる行為が横行してきた。全国の労働局や労働基準監督署が2019年に技能実習生が在籍する事業場に対して行った監督指導では、指導した事業場のうち71.9%の6796カ所で労働基準関係法令違反が認められた。違反事項は「労働時間」が最多で、「安全基準」『割増賃金の支払い』と続く。日本の企業は外圧がないと動かないのは、情けないことである。ESGやSDGs(目標10:人や国の不平等をなくそう)を遵守できる企業が増えることを願うばかりである。これを機会に、世界に憧れる日本にしなければならないことを、国民ひとり一人認識すべきである。