2013年10月号 画一的な金融から育てる金融へ
画一的な金融から育てる金融へ
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2009年12月施行の中小企業金融円滑化法が3月末に終了、リーマンショックや東日本大震災に対して一定の効果があったことも事実であるが、一方モラルハザードや中小企業の経営改善が不十分なども指摘されている。人口減少・少子高齢化の進展や産業構造等が大きく変化しており、地域金融機関に求められる役割も変わってきている。中小企業はじめとした経営者からは、経営課題への適切な助言や販路拡大等の経営支援、ニーズに合致した多様な金融サービスの提供を期待されている。
この度、平成25年9月6日金融庁が公表した向け中小・地域金融機関監督方針には、「実体経済活動のためにリスクを果敢にとるのも金融機関の本来の役割であり、デフレ脱却に向けて、適切なリスク管理の下、目利き能力やコンサルティング機能を高め、成長分野などへの新規融資を含む積極的な資金供給を行うとともに、中小企業の経営改善・体質強化の支援を本格化していくことが期待される。」とか「各種のリスクを的確に把握した上で、5~10年後を見据えた中長期の経営戦略を検討することが重要である。」などを地域金融機関に求めている。
当に事業再生に携わる現場人としては、「取引先に対する経営改善・事業再生等のコンサルティング機能の発揮」や「将来の可能性を重視した融資等の取組み」に建設的に取組んでいただける地域金融機関が増えることを願うばかりである。
ご参考まで今年1月、家森信善名古屋大学教授らが実施した地域金融機関支店長アンケートの記事が、日本経済新聞の経済教室に掲載されていたのでご紹介する。このアンケートは、全国の地域金融機関71社(地銀20行、第二地銀17行、信金27庫、信組7組)の4050人の支店長に対してアンケートを実施し、1350人から回答を得ている。
アンケート結果によれば、「非常に重要」との回答が多かったものとしては、「取引先の事業内容や業界の知識が不十分」「取引先の技術力、開発力、知的財産に関する知識が不十分」「経営支援実行のための担当者育成・教育が不十分」といった人材面の課題を指摘している。つまり、企業の求めている高度で広範なコンサルティング機能を提供できる人材を十分に育成できてないために、「育てる」金融が実践できてないと報告している。地域金融機関職員の業績評価において、育てる金融にとって重要な「経営支援への評価」は、「預金」よりも低い評価と回答されていることに驚くばかりである。
地域金融機関は、営業地域が限定されており、特定の地域、業種に密着した営業展開を行っている以上、リレーションシップバンキング、すなわち、金融機関が取引先との間で親密な関係を長く維持することにより取引先に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行うビジネスモデルを進化することが喫緊の課題である。地元企業に対して、「画一的な金融をするのではなく、育てる金融」を本気で取り組むことを期待したい。
(ご参考)
中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針:金融庁
Ⅱ―5 地域密着型金融の推進
Ⅱ―5-2-1 顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮
(3)経営改善・事業再生等の支援が必要な顧客企業に対する留意点
①経営再建計画の策定支援
経営再建計画の策定にあたっては、中小企業の人員や財務諸表の作成能力等を勘案し、
大企業の場合と同様な大部で精緻な経営再建計画等の策定に拘ることなく、簡素・
定性的であっても、顧客企業の経営改善や事業再生等に向けて、実効性のある課題
解決の方向性を提案することを目指す。
②積極的かつ適切に金融仲介機能を発揮する観点から、貸付の条件の変更等を行った
顧客企業から新規の信用供与の申込みがあった場合であって、新規の信用供与により
新たな収益機会の獲得や中長期的な経費削減等が見込まれ、それが顧客企業の業況
や財務等の改善につながることで債務償還能力の向上に資すると判断される場合には、
積極的かつ適時適切に新規の信用供与を行うよう努める。
Ⅱ―6 将来の成長可能性を重視した融資等に向けた取組み
Ⅱ―6-2 成長可能性を重視した融資等の取組みに係る基本的な考え方
企業の技術力・販売力・成長性等、事業そのものの採算性・将来性又は事業分野の将来
見通し(以下「企業の成長性等」という。)を重視した融資態勢の整備が図られているこ
とが期待されている。
③企業の成長性等、事業分野別の業況等又は取引先企業の顧客に関する情報(ニーズの
動向)等について、十分に調査・分析・議論した上で、営業店と本部との適切な連携に
より組織全体でこうした情報等を共有し、営業(取引先企業に対する経営相談等を含む。)
及び融資審査の過程で適切に活用していること。
⑤企業の成長性等を重視した融資等への取組みの重要性について、融資担当者や審査
担当者に周知徹底を図るとともに、研修・教育等を通じ、成長性等を適切に評価する
能力の向上に努めていること。