2014年10月号 円安が日本経済にもたらすメリットとデメリット
円安が日本経済にもたらすメリットとデメリット
~(短期と中長期)~
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円安が日本経済にもたらすメリットとデメリットについては、海外景気動向が輸出増減のみならず円安の影響の良し悪しをも左右する。
東京商工会議所は、「中小企業の円安への対応に関するアンケート」を平成26年2月~3月にかけて、中小企業会員(3,492社)を対象に調査を実施した。
短期的には、円安による「デメリットにほうが大きい」企業は約半数(49.1%)を占めた。「デメリットのほうが大きい」理由としては「仕入価格の上昇」(71.4%)が最も多く、次いで「原材料・部品価格の上昇」(49.7%)、「燃料価格の上昇」(37.5%)の順となり、コスト面での影響が上位にきている。
一方、「メリットのほうが大きい」企業は約1割(11.9%)であった。輸出を行っている企業のうち「メリットのほうが大きい」企業は約3分の1(36.4%)にとどまった。輸入を行っている企業では「デメリットのほうが大きい」と回答した企業が約7割(71.6%)に及んだ。輸出を行っている企業でも、海外の景気が低迷しており、取引先の需要が伸びず円安でも輸出額を増やせてない。
調査結果のとおり円安のよる価格押し上げ効果は、輸出よりも輸入において大きい。こうした差異は、輸出と輸入における通貨比率の相違がある。財務省「貿易取引通貨別比率」によれば、輸出ではドル建てが約半分で、円建ての比率は約4割となっている。
一方輸入では、ドル建ての比率は73.7%と輸出よりも大幅に高く、円建ては約2割に過ぎない。このため、為替レートが変動した時に、輸入価格の方が影響を受けやすくなっている。
中長期的には、円安が定着した場合の懸念材料として東日本大震災以降、発電エネルギーの中心を火力にしたことによる燃料輸入額の上振れなどで輸出金額よりも輸入金額の方が多い貿易赤字が定着しており、貿易収支の解消のためには円安だけでは不十分であり、米国とアジアを中心とする、日本の輸出先の景気が明確に回復していることである。海外景気の回復が遅れた場合には、円安と貿易赤字が続き、燃料輸入による国富流出によって円安のデメリットの方が大きい状態のまま国内景気低迷が長期化する可能性が高まる。
日本では、所得収支の黒字が貿易収支の赤字を補い、経常収支全体では黒字を保ってきたが、「経常収支も赤字に陥る」と予想されれば、円安に歯止めがかからなくなる恐れがある。日本経済にとってこの先海外景気動向は、輸出増減のみなら、円安が及ぼす影響の良し悪しをも左右することに注視しなければならない。