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2021年8月号 日本のものづくりへの信頼に打撃

三菱電機は1921年に三菱造船電機製作所を母体に発足し、1952年に「品質奉仕の三菱電機」という社是を定めている。その大手企業である三菱電機は、鉄道車両向け空調装置での不正検査を35年以上にわたって続けてきた。経済発展の根幹を支える生産革新やインフラの高度化などを手がける大手企業で不正が繰り返されたことは、日本のものづくりへの信頼に打撃となっている。

 

日本の製造業の場合、事業部門は日本経済が右肩上がりだった高度成長期は業績拡大に貢献した。しかしこうした事業部門ごとの「分散統治」は、部品事業の競争力を高めるには効果的だが、品質に対する危機意識などトップの意志が組織に浸透しない弱点がある。バブル経済が崩壊して以降、各部門が自らの利益を最優先する個別最適の副作用を、問題視されてきている。

 

大手企業が故に日本の製造業に忍び寄る3つの共通した影がある。第1に、品質への過信である。第2に、工場現場にはびこる組織防衛を優先する風土、現場優先の風潮である。第3は、老朽設備である。特に第2指摘した組織防衛を優先する風土は、大手企業と言えども、終身雇用で閉鎖・均質化された集団が、厳しい国際競争と事業再編の波にもまれ思考停止の状態になってきている。自分たちの保身や組織防衛にために企業を私物化してきている。「上司に逆らえぬ企業風土」役員から社員に至るまで「できない」とは言わないというのは、何も大手企業の社員に限ったことではない。

 

三菱電機の不正検査問題では、鉄道車両向け空調装置の海外の最終納入先が約15か国に上回る。ニューヨークや英ロンドンの地下鉄の車両向け空調装置を納入している。海外での納入を巡り、専門家が指摘するのは、米国など海外での訴訟の可能性である。米国に輸出された製品に関する品質不正の問題に対し、米国では詐欺罪の対象となる恐れがある。米国で問題になった場合、捜査主体となる司法省や連邦検事が、米国子会社などに対し「サピナー」と呼ばれる罰則付き召喚状を出し、関連文書などを求めることから始まる可能性が高い。国内でも法令違反で問題になる可能性がある。商品の品質や製造方法について虚偽の表示などを禁じている不正競争防止法への抵触である。

 

三菱電機の2021年3月期は、海外売上高比率は42%であった。鉄道だけでなくファクトリーオートメーション(FA)など他のビジネスにも響く可能性もある。日本のものづくりへの信頼回復に向けて、真摯に向き合い取組むことを世界各国とも期待している。

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