2022年8月号 非常事態の少子化と認識すべき日本
厚生労働省は6月3日、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率が2021年は1.30だったと発表した。厚生労働省は15~49歳の女性人口の減少と20代の出生率低下を理由にあげる。結婚の減少も拍車をかけ、2021年は50万1116組と戦後最少でコロナ禍前の2019年比で10万組近く減った。婚姻数の増減は出生率に直結する。結婚に至らない理由に経済的な不安定さがあり、正規雇用でも賃金が不十分な人が多い。若い世代のキャリア形成支援が結婚、出産に結びつく。少子高齢化が進めば日本の社会基盤が揺らぎ、世界の経済成長に取り残されていく。
さらに2021年日本人の出生数は前年より2万9千人少ない81万1千人だった。これも戦後最少である。死亡数から出生数を引いた自然減少数は62万8千人である。これは鳥取県の人口54万4千人を大きく上回る。高齢人口の増大で死亡者の増加が続いている。国力を衰退させる人口減少のピッチ緩和を最優先の政治課題にすべきである。子供を産みにくいことがある。そのような国になっていることの認識が政府に薄いことである。
「男性は仕事、女性は家事育児」という古くからの性別役割分業や親が負担を背負いがちな子育て環境が複雑に絡み合った社会構造がある。日本の女性が家事・育児に割く割合は男性の5.5倍である。様々な社会要因のなかでも男性の育児や家事など家庭進出の度合が出生率に影響がある。2022年度から男性が子の生後8週間以内に最大4週間の育休を取れるなど改正育児・介護休業法が施行され、企業も意識を問われることになる。日本の場合、子育て支援に注ぐ予算が十分とは言えない。OECDのデータ(2017年)では、児童手当や育休給付、保育サービスといった日本の家族関係の公的支出は国内総生産(GDP)比1.79%とフランスやスウェーデンの約半分の水準である。男性が家事育児に参加しやすい環境づくり、そして子育て関連予算の充実と効率的な配分、この両輪が欠かせない。
少子化に歯止めをかけるには、女性の賃金水準が低く、家庭のなかで家事・育児の負担を背負う状況を解消することである。女性が置かれた不利な環境の改善を急ぐ必要がある。女性活躍推進法の改正で、大企業は賃金格差の情報開示が求められるようになる。これを機に、男女格差に目を向けっ出産前など早めにキァリアを積むよう取り組むことが必要である。女性の自立を支え、若い世代が安心して子育てできる社会につくりかえないと、出生率の改善は永遠に望めない。日本社会全体の意識改革が必要である。