2024年8月号 企業価値担保権について
6月7日に成立した「事業性融資推進法」は担保の登記システム更改などを経て2年半以内に施行される。最大のポイントは、企業の持つ事業価値全体に担保権を設定できる「企業価値担保権」を新設したことである。
今回の特徴として、(1)不動産を目的とする担保権又は個人を保証人とする保証契約等に依存した融資慣行の是正及び会社の事業に必要な資金の調達等の円滑化を図り、これらにより会社の事業継続及び成長発展を支え、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とすること。(2)事業性融資の推進にあり、そのためには、事業性評価が可能な人材の育成こそが重要であり、その点では、「認定事業性融資推進支援機関」の制度化とその運用が、重要であること。(3)金融において、借入企業の事業の健全性・収益性・将来性に着目することは、極めて重要な視点であること。企業価値担保権の担保目的財産は、会社の「総財産」であり、将来財産も含まれます。事業=企業継続価値 単純な「包括担保」や「全資産担保」といったアセットを目的とする担保とは、発想を異にしていることなど従来とは異なる点があります。
この「企業価値担保権」,広く事業を目的とする担保権の特徴は、設定時の事業性評価を前提とした上で、①事業全体(企業継続価値)を担保目的とする点、②期中において、コベナツとモニタリングにより事業の管理(企業継続価値の維持と随時弁済による事業収益からの回収)を行う点があります。そのため企業価値担保権の構想では、金融機関は、担保価値の保全を図るためには、債務者の事業をモニターし、その価値をリアルタイムで把握する必要があります。
当然ながら企業価値は事業環境が悪くなれば減少、消滅するリスクがあります。そのため債権者である銀行が、中小企業などに日頃から目を配り、事業が傾き始めたら早期に経営支援や再建に取り組む意識が高まりやすくなります。企業価値担保権が導入されれば企業のノウハウや技術力、将来性など財務諸表に表れない価値を行員が評価する必要があります。特に将来キャッシュフローの現在価値をはかるDCF法(=デイスカウントキャシュフロー法)がよく使われることになります。事業の成長性を見極める銀行の目利き力がより重要になってきます。
(補足説明)
①DCF法は、事業計画書からその会社が将来どれくらいの利益(フリーキャッシュフロー)を得るかを計算し、将来の不確定性やリスクを「割引率」として考慮したうえで計算式から企業価値を求める手法です。
②FCF(フリーキャッシュフロー)とは、営業活動によって生じたお金の増減(営業キャッシュフロー)から、設備投資・有価証券の取得・固定資産の取得などで生じるお金の増減
(投資キャシュフロー)を引いた計算式で求めるものです。
③FCF=営業利益×(1-税率)+減価償却費―設備投資額±運転資本の増加額